前回、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)は、性別により罹患率・重症化率が異なることをお伝えしました。今回は、ABO血液型により重症化率に違いがあるという研究についてお話しします。
その前にまずは、ここで出てくる用語について簡単にご説明します。
そもそも、ABO血液型とは
人間の血液には非常に多くの血液型があり、なかでも、ABO血液型とRh血液型は輸血をするうえで極めて重要な血液型となります。
赤血球の表面にある血液型の物質を“抗原”とよび、血清の中にある赤血球と反応する物質を“抗体”とよびます。
赤血球の表面には250種以上の表面抗原がありますが、A/B型抗原はその代表的な抗原です。 赤血球の表面にA抗原があるとA型、B抗原があるとB型、AとB両方の抗原があるとAB型、両抗原がないとO型となります。
このことは、1900年、オーストリアの病理学者・血清学者であるカール・ランドシュタイナーが、ある人の血清に他人の赤血球を混ぜると凝集する場合としない場合があることを発見したことから解明され、現代輸血の出発点になったと言われています。
こうした抗原と抗体の組合せから、たとえばA型の患者さんにB型の赤血球を輸血すると、A型の患者さんが持つ抗Bが輸血した赤血球のB抗原を攻撃(赤血球を破壊)して、重い副作用が起こります。したがって、輸血は同じABO血液型で行うことが大原則となります。
遺伝子座とは?
遺伝子座(いでんしざ)とは、遺伝学において、特定の遺伝子または遺伝子マーカーが存在する染色体上の特定の固定位置のことを指します。各染色体は多くの遺伝子を持ち、それぞれの遺伝子は異なる位置または遺伝子座を占めています。
染色体の構造
細胞遺伝学的バンドの命名法
遺伝子座は、染色体番号、短腕(p-arm)もしくは長腕(q-arm)での位置、腕の上での位置から成ります。
例えば、典型的な遺伝子の染色体座は、3=3番染色体、p=p腕、22=リージョン2,バンド2であることから、<3p22.1>と書くことができます。
COVID-19、ABO血液型により重症化に違い
さて、いよいよ本題です。
COVID-19を引き起こすSARS-CoV-2に感染した患者にばらつきがみられることから、ドイツ・Christian-Albrechts大学のDavid Ellinghaus氏らの研究グループ「The Severe Covid-19 GWAS Group」が、欧州におけるSARS-CoV-2流行の中心地、イタリアとスペインの7ヵ所の病院を通じて、COVID-19患者で重症化(呼吸不全)が認められた1,980例について、患者を対象にゲノムワイド関連分析(GWAS)を行いました。
それによると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者が重症化し呼吸不全を来すリスクについて、3p21.31遺伝子座と9q34.2遺伝子座の変異との関連性が明らかになったとのことです。
9q34.2遺伝子座は血液型の遺伝子座と一致しており、血液型A型の人は、他の血液型の人に比べ重症化リスクが1.45倍高く、一方で血液型O型の人は重症化リスクが0.65倍低いことが示されたのです。
終わりに
新型コロナウイルス感染症について、性別では女性よりも男性の方が罹患率・重症化率が高いこと、血液型ではA型の人において重症化リスクが高く、0型の人において低いことが分かりました。
とは言え、ご自身と大切な周囲の人々の健康や社会生活を守るためには、属性に関わらず、常に感染を防ぐ行動を心掛けることが大切です。 その一助となるマスクも、適切なものを選択するようにしましょう。