世界中で日常的に存在する、非常に感染力の強い感染症、ヘルペス。
ヒトに脳炎、口唇ヘルペス、性器ヘルペス、皮膚疾患、眼疾患、全身性の新生児ヘルペスウイルスといった多様な疾患を引き起こします。
日本では60歳を超えると80%以上、推定では800万人以上が寄生感染している状態といわれているメジャーな疾患なので、聞いたことがある方、罹患したことがある方も多いのではないでしょうか。
一旦感染すると現代の医学では完全に根絶することができず、生涯、神経節に寄生し続け、体調の悪化や紫外線、月経、寒冷刺激、ストレスなどによって体の免疫力が低下したときにウイルスが増殖し、症状が再活性化します。
ヘルペスウイルスは、ヘルペスウイルス科として9種類存在し、主に口唇ヘルペスを引き起こす単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus;HSV)と、帯状疱疹を引き起こす水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の2種類を指しますが、HSVとVZVは別のウイルスであり、治療法も異なります。
今回は、単純ヘルペスウイルスについてお伝えします。
【参照】水痘(水ぼうそう)と帯状疱疹
ヘルペスウイルスの構造と感染の仕組み
ヘルペスウイルス粒子はほぼ球状で、外側から、エンベロープ(宿主細胞由来の脂質2重膜)、テグメント(タンパク質層)、カプシド(ウイルスゲノムを取り囲むタンパク質の殻)から成っています。
単純ヘルペスウイルスの表面にはさまざまな糖たんぱく質が存在し、宿主の免疫細胞表面にあるたんぱく質と結合すると、それが免疫細胞の攻撃を抑えるスイッチの役割を果たし、単純ヘルペスウイルスは細胞へ侵入します。
ヘルペスウイルスは潜伏感染するため、気付かないうちに感染が広がってしまうことが最大の特徴です。
単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)
主に口唇ヘルペスを生じ、ヘルペス口内炎、ヘルペス角膜炎、単純ヘルペス脳炎の原因となるとともに三叉神経節に潜伏感染します。
感染経路
主に口から口への接触によって伝播し、口腔内もしくは周囲に感染(口腔ヘルペス)を引き起こします。また、口と性器との接触を通して性器にも伝播し、性器ヘルペスを引き起こす能力もあります。
症状がなくても伝播しますが、感染のリスクが最も大きいのは炎症が発生している時です。
既にHSV-1の口腔ヘルペスに感染している人は、その後にHSV-1が性器に感染することはほとんどありません。
ごくまれに、HSV-1に性器感染している母親から出産時に新生児に伝播することがあります。
症状
ほとんどは無症状で、強いて言えば、口腔ヘルペスの症状は、感染部位の疼痛を伴う水疱や口腔内や口腔周囲の潰瘍で現れるただれが症状として現れます。
唇のただれは一般的に「口唇ヘルペス」と呼ばれており、ただれの出現の前には、口の周りに疼きや痒みや焼け付く痛みを感じることが多くあります。
HSV-1による性器ヘルペスは、無症状か、自覚しないほどの軽い症状を示します。症状としては、性器や肛門に現れる単一かそれ以上の水疱や潰瘍が発生します。
予防法
残念ながら、単純ヘルペスウイルスの感染を予防するワクチンはまだありません。
そのため、口腔ヘルペスの症状が現れている人は、他の人との接触や唾液が触れた物品の共有を避けるのが良いでしょう。
また、これらの人は、パートナーの性器にヘルペスが伝播することを避けるために、オーラルセックスを控える必要があります。性器ヘルペスの症状のある人は、いずれの症状があった場合にも性行為を控えておく必要があります。
治療法
抗ウイルス薬は、病初期に投与しないと効果が期待できないため、病初期以外は対症療法が主とります。
アシクロビル、ファムシクロビル、バラシクロビルなどの抗ウイルス薬は、HSVに感染した人に対して使用できる最も効果のある薬剤です。
これらには、症状の重症度を下げ頻度を減らす効果がありますが、感染自体を治癒させることはできません。
成人の口唇ヘルペスの場合、バラシクロビル500mgを1日2回経口投与するのが一般的です。
単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)
主に性器ヘルペス、新生児ヘルペス、ヘルペス髄膜炎、ヘルペス脊髄炎の原因となるとともに仙髄の脊髄神経節に潜伏感染します。
感染経路
ほぼ例外なく性行為で感染し、性器や肛門に感染(性器ヘルペス)を引き起こします。
性行為によるHSVの感染は、女性から男性よりも男性から女性の方が感染の効率が高いことが分かっています。
症状
ほとんどが無症状やごく軽症ですが、性器ヘルペスは単一または複数の水疱や性器潰瘍と呼ばれるただれが現われます。また、最初の感染では発熱、全身痛、リンパ節腫脹を伴います。
性器潰瘍が現れる前に、足、腰、お尻に穏やかなうずきや特発的な痛みを感じることもあります。
また、性器ヘルペスはエイズウイルスの感染危険度を2~4倍程度増加させるという報告もあります。
予防法
HSV-1と同様、感染を予防するワクチンはまだないため、症状が出ている時は他の人との接触や唾液が触れた物品の共有をしないことが大切です。
コンドームで覆われない部位でも感染が起こるため、性行為も控えるようにしましょう。
治療法
HSV-1と同様、抗ウイルス薬での治療となり、成人の性器ヘルペスの場合、バラシクロビル500mgを1日1回経口投与するのが一般的です。
【参照】
●厚生労働省 検疫所
●WHO..Fact sheet, Media centre.Update January2017.
終わりに
非常に感染力が強く身近なヘルペス。
一旦感染すると生涯共存することになり、体の免疫力が低下したときにウイルスが増殖し、症状が再活性化するので、普段から心身の健康を保ち、感染しない・再発しないよう心掛けていきましょう。